29年度税制改正
29年度の税制改正法が3月27日に成立し、4月1日から施行されました。
中小企業者に関連する事項を中心に説明していきます。
1.法人税関係
(1)研究開発税制の見直し
あらゆる業種の研究開発投資を後押しするため、「サービス」の開発を支援対象に追加するとともに、安倍政権の民間企業の研究開発投資の対GDP比3%という目標を着実に達成するために、研究開発税制においてもその増額に対するインセンティブを組み込むことにしました。
鄯)試験研究費の範囲の見直し
これまでは、製品の製造又は技術の改良等に限られていましたが、「対価を得て提供する新たな役務(新サービス)の開発に係る試験研究費のために要する一定の費用」をその範囲に加えました。
例)自然災害予測サービス、農業支援サービス、ヘルスケアサービス、観光サービスなど
鄱)税額控除率(総額型)
29年度改正において控除率が、試験研究費の増減割合に応じて変動する形になりました。
・中小企業者以外
(改正前)試験研究費の総額×8〜10%(限度額は法人税額の25%)
(売上高試験研究費比率に応じて)
↓
(改正後)試験研究費の総額×6〜14%
(試験研究費増減率に応じて)
・中小企業者
(改正前)試験研究費の総額×12%(限度額は法人税額の25%)
↓
(改正後)試験研究費の総額×12%〜17%(限度額は法人税額の25%+〜10%)
(試験研究費の増加率に応じて) (試験研究費割合に応じて)
(適用期間)平成29年4月1日以降開始事業年度から
(2)所得拡大税制の見直し
従来から、一定の賃上げをした企業にはその増加額の10%の控除が認められる制度がありました。
29年度改正では、さらなる賃上げを実現するために、企業の賃上げインセンティブを強化する改正が行われました。
鄯)適用要件の改正
改正前から1.給与等支給総額の基準年度からの一定割合以上の増加、2.前事業年度以上、3.平均給与等支給額の前事業年度超という要件がありました。このうち、3つ目の要件が改正になり、大企業については、平均給与等支給額は前年を超えるだけではなく、2%以上増加することが必要になりました。
鄱)税額控除の改正
改正前は、一律増価額の10%でしたが、賃上げ率に応じた控除額になりました。
大企業 :賃上げ率2%以上→12%
賃上げ率2%未満→対象外(鄯の改正)
中小企業者等:賃上げ率2%以上→22%
賃上げ率2%未満→10%
(適用期間)平成29年4月1日以降開始事業年度から
(3)中小企業経営強化税制の創設
中小企業の稼ぐ力を向上させる取り組みを支援するため、生産性向上設備等に係る即時償却等について、中小企業経営強化税制として改組し、創設しました。
生産性向上設備(A類型)と収益力強化設備(B類型)の2種類がありますが、共通の要件として、青色申告を提出する中小企業者等であること、中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けなければならないことが挙げられます。また、新品の生産等設備であることが必要で、事務用器具備品、本店、寄宿舎等に係る附属設備等は対象外になります。設備ごとの金額要件やその他の要件をクリアすれば、即時償却又は7%の税額控除が可能です。
(その他の要件)
A類型:生産性が旧モデル比年平均1%以上改善
工業会等による確認
B類型:投資収益率が年平均5%以上の投資計画に係る設備
経済産業局による確認
(対象設備の金額要件)
機械装置:160万円以上
器具備品:30万円以上
建物附属設備:60万円以上
ソフトウェア:70万円以上
(適用期間)平成29年4月1日〜平成31年3月31日までの取得等
2.所得税関係
(1)配偶者控除・配偶者特別控除の見直し
妻がが就業調整をすることによって、夫に配偶者控除が適用される103万円以内にパート収入を抑える傾向がある(いわゆる103万円の壁)との指摘に対応するため、それを意識しなくて済む仕組みを構築する観点から配偶者控除・配偶者特別控除を見直すこととしました。これにより人手不足の解消による日本経済の成長に資することを期待するのものとされています。
上記は、配偶者の給与収入の壁を103万円から150万円に増額することによる就業調整要因の排除という社会からの要請に応じた改正で減税ですが、もうひとつ同時に増税の改正が行われています。配偶者特別控除のみに設定されていた夫の所得要件が配偶者控除にも適用されることとなりました。夫の所得が900万円(給与収入1120万円)を超えると配偶者控除が徐々に減少し、その所得がが1000万円(給与収入が1220万円)以上になると配偶者控除・配偶者特別控除いずれも受けられなくなってしまいました。
(適用時期)平成30年分の所得税から
3.消費税関係
(1)仮想通貨の消費税非課税化
ビットコインなどの仮想通貨の譲渡はこれまで課税資産の譲渡等に該当していましたが、「支払手段」として位置づけられることや諸外国の取り扱いを踏まえ、非課税扱いとなりました。
(適用時期)平成29年7月1日以降
ただし、直前に大量の仮想通貨を購入することによる節税?を防止する観点から平成29年6月末に100万円以上の仮想通貨を保有する場合は、直前1カ月に平均保有量より増額した分についての課税仕入れは仕入れ税額控除が認められないという措置が採られています。
4.資産税関係
(1)居住用超高層建築物に係る課税の見直し
いわゆるタワーマンションの高層階を購入することによる節税が話題になっています。タワーマンションは一般的に低層階に比べ高層階の物件の方が高い価額で取引されていますが、相続税評価は階層は加味されない計算方法になっています。そこで富裕層が高額な物件を購入することによる節税を行っている現状があるようです。また、固定資産税についても同様、床面積が同じであれば同じ固定資産税が課されていました。
29年度の改正では、このうち固定資産税の見直しが行われました。対象は高さ60mを超える物件で、物件全体の固定資産税は変えず高層階ほど税額が高くなるように改正がなされました。不動産取得税についても同様の評価額の補正が行われます。
(適用期間)平成30年度から新たに課税されることとなる物件から
相続税評価については29年度改正では変更はありませんでしたが今後の見直される可能性がありそうです。
(2)非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度の見直し
いわゆる事業承継税制について、中小企業の高齢化の進行を踏まえ、事業承継のさらなる促進を図る観点から、雇用確保要件の緩和の改正が行われました。
納税猶予制度の適用を受けた場合の5年間雇用8割維持という要件がありますが、この計算方法を1人未満の端数「切上」げから「切捨て」に改正されました。細かい改正のようですが、小規模な事業者の場合大きな影響があります。
例えば、4人→3人に減ってしまった場合、
改正前:4人×0.8=3.2 →切上げで計算すると4人以上の維持が必要だからダメ
改正後:4人×0.8=3.2 →切捨てで計算すると3人以上の維持でOK
(適用期間)平成29年1月1日以降に相続等により取得する財産から
(3)取引相場のない株式の評価の見直し
相続税法の時価主義の下、より実態に即した評価の見直しが行われました。具体的には類似業種比準方式による株価の算出方法の見直しです。
・類似業種の上場会社の株価について、直前3ヶ月の最安株価と前年平均株価の選択だったのが、もうひとつ選択肢が増えて、前月以前2年間の平均株価も加わりました。3つうちの最安株価を選択できるので有利になりました。
・比準要素の比重が変わりました
配当金額:利益金額:簿価純資産価額の比重について、1:3:1→1:1:1となりました。
利益がでている会社にとっては有利になると思われます。
(適用時期)平成29年1月1日以降の相続等により取得した財産評価から
(4)広大評価の見直し
これまでの広大地評価を実際の取引価格をより反映した方法に変更する改正が行われました。
これまでは面積に応じて比例的に減額する評価方法だったのが、各土地の個性に応じて形状・面積に基づき評価する方法に見直されました。
(適用時期)平成30年1月1日以降相続等により取得する財産について適用